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『南の里』ISO9001取得

職員全員の力で取得した品質ISO

競争原理が押し寄せ、利用者の厳しい選択眼にさらされるようになった福祉の世界に、品質ISO9001を認証取得した高齢者福祉施設が登場した。社会福祉法人正栄会のケアハウス・デイサービスセンター「南の里」(南里尚施設長)は、品質ISO9001を認証取得。県内福祉施設で初の試みは、大きな注目を集めている。もともと製造業が対象の−SO9001を、強い意志で福祉に当てはめた「南の里」。出来上がった「福祉版ISO9001」の内容と効果とは・・・。にこやかな利用者たちの表情が、その答えを語っているようだった。

ISOで競争時代を生き抜く
「クレームは宝です」と南里尚施設長は語る。「クレームは気づき。それを取り入れて良い施設になっていくんですよ」。 福祉もサービスを提供するという点では、サービス業の一種。サービスの内容で施設が利用者に選ばれる競争時代を迎えた今、目指すのは福祉サービスの質の向上。そしてそれを利用者へ明確に伝え、信頼関係を築くこと。
そのためには施設内の業務体系を整理する必要があった。職員が現場で何か気付いたことがあっても、指揮系統が整備されていないとその貴重な意見も生かせない。その点、品質ISO9001は利用者の信頼に応える価値基準として最適だった。
「ISOでは、責任の所在が明確になります。もし、クレームがきたら責任者が原因を明確にし、是正処置まで盛り込んだ報告を書類で提出するんです」(南里充代副施設長)。徹底したアフターフォロー。この一つひとつの積み重ねが利用者の信頼を強めていくのである。いくら福祉は心で行うと言っても、それを客観的に相手へ伝えるツールは必要なのだ。しかし、もともと製造業向けの品質ISO9001を福祉施設が認証取得するのに違和感はなかったのだろうか。
品質管理責任者でもある南里充代副施設長は「ISOコンサルタントとしても福祉施設の認証取得は初めての経験でしたし、私も施設長からISOの話が出たときは、ISOとは何かも分からない状態でした。コンサルタントの説明一つにも戸惑ってばかり。恥も外聞も捨てて何でも質問し、やっと納得したと思ったらまた矛盾点が出てくる。この繰り返しでした」と苦笑いする。「寝ても覚めてもISOという状態でしたね。夜中に目が覚めて、勉強したこともありました」(南里充代副施設長)というほど苦しんだISO9001。特に苦労したのが、「品質ISOをいかに福祉に当てはめるか」という点。
「例えば、取り扱い・保管・包装・保存及び引き渡しという項目があるんですが、まさか人様をそのように扱うわけにはいかない。福祉業務のどこに当てはまるのかとても悩みました」。
結局、その項目は施設内での調理や送迎業務などに当てはめたが、このように幅広く融通を利かせたやり方が許されるのがISOの魅力だという。
「何から何まで、がんじがらめに決められているわけではないんです。要求事項が入っていればいい。大切なのはどうアレンジし活用するか、だと思います」。

職員一人ひとりで成り立っている「南の里」

 それは、意外な言葉かもしれない。ISOとは厳しい国際規格であり、アレンジという言葉からはほど遠いイメージなのだから。「確かに骨組みはISOによるマニュアルかもしれません。しかし細部を構成するのは心。決して人を縛り付けるものではありません」(南里充代副施設長)。 例えば、「利用者の体調について家族から話を聞く」という骨組みがあったとしても、実際の口の利き方までは決められていない。この場合思いやりがこもった態度で接することができるかは、職員の器量に任されている。つまり自分で判断し、自分の責任での行動が求められるのである。
これは、施設全体についても当てはまる。施設全体をひとつの品質として捉え、ISOという骨組みに沿って話し合う。職員一人ひとりがプロの眼で見て「ヒヤリ」としたり「ハッ」とする場面を自らの意思で改善していく努力が重ねられた。上からの命令ではなく、あくまでも責任者がそれぞれの担当部署について出したアイデアをつなげていつ−たのである。「どのようにすればより快適になるかをとことん話し合い、改善の結果を報告書にして提出してもらいました。ここで気をつけたことは、絶対に職員を叱ったり命令したりしないということでした。職員に任せて考 えてもらうことが何より大切なんです。そうしないと、職員も自信がつきませんし、施設のレベルアップにもつながらないですから」(南里充代副施設長)。
職員が自分で考え行動し、結果を出すことで、「南の里」に目に見えて変化が起こった。物の置き場やカーテンの取り付けから書類の書き方まで、べてにおいて意識改革が起こったのである。自分のアイデアが反映され、結果が報告書という明確な形となって評価されることは、職員のやる気を刺激した。「不適合」(ISOの定義で要求を満たしていないこと)を改善できる喜びを知って、施設は生き生きと活気づいたのだった。

停滞は許されない

 ISO9001認証取得に向けてのキックオフは、平成十二年十一月。それからわずか一年後の平成十三年十二月十日にISO9001を認証取得。そして現在、二○○○年版ISO9001認証取得に向けて勉強中であり、既にその要求項目の一部を取り入れて業務に生かしているという。
審査結果をまとめた「INITIAL AUDIT REPORT」には、「高度の水準」、「完成されている」、「洗練」といった讃辞が並ぶ。 いかに高い評価を受けての認証取得だったかがうかがえる。中でも特に印象的だったのは「経営者は強い意志を持って・・・」というくだりだ。本来、製造業向けとされる品質ISOを福祉の世界に当てはめた努力と功績は、十分に報われたと言える。「ISOにチャレンジすることで気付くことも多かったし、日頃から良い習慣が徹底されて施設全体が快適になりました」と南里充代副施設長常に清掃が行き届いた施設は、大掃除の必要もないという。それでも、「南の里」にとっては、ここからがスタートだと南里尚施設長。「(ISOの)骨組みが出来たということは、業務改善のスタートラインについたということです。それは言ってみれば、これから良いところを伸ばしていくための土台にしか過ぎません。現状維持は後退と同じ。前進あるのみです」。常に時代を読み、一番良い処遇をしていく努力を続けるー.一見当たり前のようだが、その当たり前のことをするのが難しいのだ。
「南の里」を利用するお年寄りは言う。
「ここに来ると楽しい。みんな親切だし、次に来る日が待ち遠しいです」。
「ISOを取ったすごい施設に入れて本当に良かったねと家族から言われ、私までうれしくなりました」。
この言葉が信頼のなによりの証拠だろう。「南の里」は、利用者の談笑する和やかな空気で満たされていた。

高齢者福祉施設
ケアハウス・デイサービスセンター
「南の里」

宇都宮市花一房3--16
TEL028(632)1900


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