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プレス技術連載第4回
Q
品質マニュアル一冊のISO
現在、ISO9001を取得するため、参考書を例に文書を作り始めました。標準的な文書体系ですが、ある人からワンマニュアルという言葉を聴きました。どんなモノなのですか?
藍田良雄:
前回のダイエットISOに引き続き、システムのスリム化を考えてみたい。いったい何時から品質マニュアルは、要求事項の引き写しになったのだろうか?大手型の文書体系は、殆どが3階層か4階層である。品質マニュアル・規定類・標準手順書類・記録の構成です。品質マニュアルは一番重要な文書というものの、企業の特徴も味気も無く、ただ要求事項に合わせて抽象的な文章の羅列になっているのが一般的です。品質マニュアルと同じ内容の規定が、いくつも作られる例も多い。
中小企業が大手型のシステムを真似するのは、参考書や取引先の薦めばかりではないようです。会社の現在の管理レベルが、平均以下なのに満点に近いシステムを構築しているケースがあります。ISO取得に、一種のプライドやステータスを求める傾向があるためか、または、日本人特有の几帳面さが作業マニュアルなどの文書を、企業の実態を無視して必要以上に増加させているのです。さらに、業務や品質上の重要点のみを効率よく明文化することに慣れていないのも、文書量を増やす原因です。
柄守川我留男:
ISOISO9001:2000移行とISO14001:1996取得を機に、文書は統合マニュアル1冊で認証を受けた例がある。指導した西沢研究所の特徴は、ムダな文書は一切作らないことだ。もちろんISO9001の場合でも、品質マニュアルのみで、管理規定を含め標準・手順書は作らない。必要な内容は、全て品質マニュアルに含まれながら、厚みは50数ページに収まっている。品質マネジメントシステムに必要な文書は「品質マニュアル」一冊にまとめてしまう。審査の際は、この一冊のマニュアルと記録のみで審査を受けることになる。品質文書の構造体系を根本的に改革して,シンプル化を実現する画期的な方法である。
これが、ワンマニュアルだ。非常にシンプルであるため、社員も読みやすく理解が早い。重要なことは、十分な時間をかけて業務分析と既存文書の調査を行い、企業の業務実態に合ったシステムにすることが大切なのだ。単なる文書の省略だけでは、システム文書としては適合しない。安易に形だけの真似をすると、失敗を招くから注意が必要だ。ところで、分り易いマニュアルを追求して、誰にでも理解できるビジュアルマニュアルをたくさん作ってはいないだろうか?ISOが要求する『会社の仕組みをマニュアル化』は、すべての行動を文書化せよといっているのではない。業務の複雑さ、精度、社員のレベル(習熟度、経験、資格)に応じた内容で良いのだ。教育・訓練を十分に行い、品質が維持されていれば作業マニュアルは不要である。例えば、管理の進んだ企業の現場に、マニュアル類は一切置いていない。車メーカーの社員がマニュアルを見ながらエンジンやタイヤを取り付けることは無い。作業マニュアルを使うのは、作業者ではなく、管理者なのだ。業務の仕組みが簡単な中小零細企業のマニュアルが薄いのは当然だ。
欧木普都生:
作業者の教育は、中小企業のコンサルティングで一番の問題となる場合が多い。要求事項などのISOの基礎学習ばかりでなく、事務局が作製した文書を読ませることすら難しいのである。彼らは、読みながら考える事に慣れていない。面倒臭いと思っている。文面を目が追ってはいるが、視力よりも思考力が疲れてくる。文書を読みやすくするため、ルビを振ったり、イラストや写真、フローチャートを挿入して、理解しやすさと、読みたくなる文書を作れと強調するコンサルタントがいるが、視点がずれている。
JCOの臨界事故が発生した直後、幹部は次のように述べている。
「原子力、特に臨界という概念は非常に難解なため、正しく理解し、知識として習得するのは難しく時間もかかる。そのため作業マニュアルの手順を遵守する教育を行い、結果的に臨界の教育を実施した」
ところが、現実に守っていたのは裏マニュアルだったことは皮肉である。この勘違いは、作業マニュアルの読み合わせが、教育だと思っていたことだ。作業マニュアルの遵守は教育ではなく、訓練である。何が重要で、必ずやる事、やってはならない事を徹底的に教え、実行できるように訓練すべきだったのだ。業務の知識・理解が重要であって、「マニュアル」ではない。ルール化の理由と、その背景に在る根本的なモノを理解しなければ、人間はそれを守ることができない。
ISO川柳
薄すぎても 厚くしすぎても 叩かれる
(マニュアル作成者)
コンパクトでISO 家に帰れば 今晩苦闘で愛そう
(恐妻家)
ISOの法則:簡潔の美徳
たくさん文書を作るほど、社員は読まない
失敗した料理(複雑システム)は何を加えても食べられず、結局捨てるしかない
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