藍田良雄: 知人の事例を紹介しましょう。
H氏はアルミ関係の製造会社に、品質管理担当課長として30数年勤続し、ISOも担当しました。
「会社にいても早期退職組か?残れたとしても、結局のところライバルに負けてしまうのでは?やはり、いま行動しなかったら悔いが残る。将来の生活の不安よりその事の方が頭の中でいっぱいになって・・・・・・」
直ちにH氏は行動を開始しました。一年間の資格取得休職制度を利用して、首都圏のISO審査員セミナーを受講したのです。2週間の研修と試験終了後、審査員補として登録を済ませました。交通費、宿泊費、高額な講習費は、残り少ない銀行預金を圧迫したようです。できるだけ審査に立ち会いを希望しましたが、順番待ちの同期の審査員補は数十人もいて、なかなか彼にチャンスが回って来ません。数年前の状況とはすっかり違って、現在では数千人の審査員補の登録があり、此処も過当競争でした。主任審査員の中には、審査の参加に露骨な要求≠求める者もいたそうです。
「早まったか?」新たな別の後悔が残り、めぼしい成果も無く半年間がただ無駄に過ぎて行きました。しかし、あの時の友人が結局挫折し、ガテン系の仕事に就職して行く姿を見て、彼は未だに歯を食いしばりがんばっています。
柄守川我留男:ウチの会社のコンサルタントに応募してきた人の実例だ。
この人物、他社が出した求人募集を見て、ウチも同じだろうとやってきた。しかし、言う事がどうもかみ合わない。コンサルティングができるような資格・経歴や人格ではないのだ。
手にしていた求人紙を見せてもらうと・・・・・・
【業務拡張につきISOコンサル大募集】
学歴・資格・過去は不問、不況に強い安定職場
目指せ年収1千万以上
体力・根性に自信のある方、容貌・容姿重視(先生・学者・医者・重役風に見える方歓迎)
失業・早期退職・倒産その他困ったなと思ったら心機一転、即応募!
先輩の笑顔写真付きメッセージには・・・・・・
『とにかく稼げます。こんなに楽な仕事で高収入なんて夢のようです。まだ一年ちょっとですが、仕事のコツはすぐ掴めます。企業に訪問し、難しそうな言葉と表情が必要ですが、直ぐに慣れます。雛形の文書を使ってワープロであっという間に仕事は終わりです。本部が完全サポートしますので安心です。こんな仕事があったんだと驚きと喜びに満足する事請け合いです。サア私と一緒にがんばりましょう』
・・・・・・この現実をみて、貴方ならどうします?
欧木普都生:世の中には、辞めて欲しい審査員がいる。ある製造業がISO9001の審査を受けた時の事。担当の審査員は、以前の勤務先の企業で、同様の製品を製造していた。彼は生産技術も担当し、この類の製品の技術を知り抜いていた。文書の審査もそこそこに、工場の中に入り込むと工程内の加工方法や条件をヒヤリングし始めた。彼の指摘はISOシステムから次第に外れて、固有技術的な観点の指摘に終始した。「こんなやり方では駄目だ、標準が無い」彼の常識ではこんな現場は我慢できないのだろうが、ISOの審査では、企業独自の固有技術や管理技術、標準の程度は審査対象とはならない。そして、別棟の工場に入ると、「作業が遅い、在庫やムダが多い、私の以前の会社はこう管理した」と、指導し始めた。彼はISO審査員ではなく、技術コンサルタントになれば良かったのである。
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